シロシビン(マジックマッシュルーム)が細胞とマウスの老化を抑制、寿命を延ばす可能性(米研究)

2025年、Nature Aging に掲載された最新の研究で、マジックマッシュルーム由来の成分「シロシビン」が、細胞や動物の老化を遅らせる可能性が示されました。

【参考文献】
Nature Aging (2025) 「シロシビン治療は細胞寿命を延ばし、老齢マウスの生存率を向上させる(Psilocybin delays aging and extends lifespan in human cells and mice)」

■ シロシビンとは?

シロシビンは、マジックマッシュルームに含まれる天然のサイケデリック(幻覚剤)成分です。
うつ病や不安症、依存症などのメンタルヘルス治療に効果があるとして世界中で研究が進んでいます。

実際、シロシビンはうつ病患者の「死の恐怖」や「精神的苦痛」を軽減し、効果が数年持続することもあると報告されています。


■ 新たな視点「老化防止効果」に注目

これまでの研究は「脳と心」に焦点を当ててきましたが、
今回の論文は「シロシビンが体全体の老化にも作用するのでは?」という新しい視点で行われました。

研究チームは「シロシビンがテロメア(染色体の端の寿命を司る部分)を守る可能性」に着目し、
細胞やマウスを使った実験を実施しました。


■ 実験内容と結果

① ヒト細胞の老化実験(in vitro)

ヒト胎児肺線維芽細胞と皮膚細胞を使い、
シロシビンの代謝物「シロシン」を投与した細胞と、投与しない細胞を比較しました。

その結果:

投与条件 細胞寿命の延長率
10μMのシロシン 約29%延長
100μMのシロシン 約57%延長

さらに、

  • 老化の指標であるβガラクトシダーゼの活性が減少

  • テロメア長が維持

  • 酸化ストレスが軽減(Nrf2増加、NOX4減少)

  • DNA修復機能が改善(GADD45a低下、SIRT1上昇)

といった「老化防止効果」の兆候が複数確認されました。


② 高齢マウスの寿命実験(in vivo)

19ヶ月齢(ヒト換算60~65歳)の雌マウスに、
月1回、10ヶ月間シロシビンを投与(初回5mg/kg、以後15mg/kg)

その結果:

生存率
シロシビン群 80%生存
対照群(溶媒のみ) 50%生存

また、被毛の状態(毛のつや、白髪の減少)も改善し、見た目も若々しく保たれました。


■ 考えられるメカニズム

シロシビンは、セロトニン2A受容体(5-HT2A)に作用する薬剤です。
この受容体は脳だけでなく、皮膚や内臓、免疫細胞にも存在します。

今回の研究では、

  • SIRT1(長寿遺伝子)の活性化

  • 酸化ストレス軽減とDNA修復促進

  • テロメア長の維持

が、老化遅延のメカニズムとして考えられています。


■ シロシビンは「健康寿命延伸薬」になるか?

研究チームは、これまで提唱されてきた「シロシビン-テロメア仮説」を裏付ける結果が得られたとしています。

今後はさらに

  • 投与開始年齢や頻度の最適化

  • 性差の影響(今回は雌マウスのみ使用)

  • がん化リスクの有無(細胞老化と発癌の関連)

を検証していく必要があります。


■ 社会的意義と今後の課題

シロシビンは現在、アメリカFDAから「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)」の指定を受けていますが、
多くの国では依然として規制対象(スケジュールI薬物)です。

そのため、研究には法的・資金的なハードルがあるものの、
今回の論文は「心と体の両面から老化にアプローチできる可能性」を示唆しています。


■ 結論

シロシビンは、これまで「心の治療薬」として期待されてきましたが、
今回の研究は「身体の老化にも効果がある可能性」を示した世界初の実験です。

もしこの効果がヒトで再現されれば、
「健康寿命を延ばす薬」としてシロシビンが医療現場で使われる日が来るかもしれません。

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