「がん患者のうつと不安にシロシビンは効果があるのか?」─最新研究が示した希望

こちらの記事は、2016年11月にSAGE Journalsに掲載された論文
「シロシビンは命に関わるがん患者のうつと不安を大幅かつ持続的に改善する:無作為化二重盲検試験(Psilocybin produces substantial and sustained decreases in depression and anxiety in patients with life-threatening cancer: A randomized double-blind trial)」の内容をChatGPTを使用しながら日本語にしたものです。

原文を確認されたい方は上記のリンクからご確認ください。

要約

がん患者は、病気の進行や余命宣告などによって、慢性的で深刻なうつや不安に悩まされることが多くあります。

これまでの研究では、シロシビン(マジックマッシュルームに含まれる成分)が、がん患者のうつや不安を軽減する可能性が示唆されていました。

今回の研究では、51人のがん患者に対し、以下の方法でシロシビンの効果を調べました。

 

はじめに(Introduction)

がん患者は、病気そのものの苦しみだけでなく、心の苦しみ(心理的苦痛)にも悩まされます。

■ がんと心の問題

  • 約40%のがん患者が「うつ病や不安障害」の基準を満たす

  • うつや不安が続くとどうなるか?

    • 治療の継続が困難になる

    • 入院期間が長くなる

    • 自殺リスクが高まる

    • 寿命が短くなることも

■ 既存の治療の課題

  • 抗うつ薬や抗不安薬(ベンゾジアゼピン)は一部使用されているが、効果は限定的で副作用の問題もある

  • 心理療法も効果はあるが、効果は「小~中程度」とされる

  • なぜシロシビンに注目?

    「古典的幻覚剤」と呼ばれる物質(シロシビンやLSDなど)は、5-HT2A受容体に作用して、思考や感情、認知を変える独特の効果を持つことが知られています。

    1960年代~70年代の研究では、シロシビンやLSDががん患者の心理的苦痛を和らげる可能性が示されましたが、当時は現代のような厳密な試験設計がなされていませんでした。


    最近の研究動向

    • 約30年間、中断されていたサイケデリックス研究が再開

    • 安全に使える方法が確立されてきた(Johnsonら、2008)

    • 小規模ながら有望な研究結果が続々発表されている

    ■ 先行研究の例

    今回の研究の意義

    この論文は、がん患者の「うつ」と「不安」に対するシロシビンの効果を、最も厳密な方法で評価した研究です。

    • 二重盲検・クロスオーバー試験を採用

    • 超低用量と高用量を比較し、期待効果(プラセボ効果)を最小化

結果:シロシビンの効果と副作用

■ 副作用について

今回の研究では、重大な副作用は発生しませんでした

ただし、一時的な体調変化は見られました。

項目 高用量(22〜30mg/70kg) 低用量(1〜3mg/70kg)
収縮期血圧160mmHg以上 34% 17%
拡張期血圧100mmHg以上 13% 2%
吐き気・嘔吐 15% 0%
身体的な不快感 21% 8%
一時的な心理的苦痛 32% 12%
不安の発作 26% 15%
妄想的な考え 2% 0%

すべての症状はセッション終了時までに回復。
持続的な幻覚障害や精神病は一切発生しませんでした。

■ ブラインド(効果予測防止)の成功度

研究スタッフにも「どの量が投与されたか」を知らせずに実験を行いました。

  • スタッフのうち 5人は誤った推測(例:もっと多くの量が使われたと思っていた)

  • 参加者とスタッフ双方の期待効果を抑えることに一定の成功

治療効果の具体的な結果

■ 心理状態の改善

シロシビンは以下のような「心と行動」に大きな変化をもたらしました。

■ 主な評価項目(17項目中16項目で効果あり)

項目 効果
うつ症状(GRID-HAMD-17) 高用量で92%が改善(低用量32%)
不安症状(HAM-A) 高用量で76%が改善(低用量24%)
6ヶ月後も効果持続 うつ改善 79%、不安改善 83%

■ 参加者の自己評価

  • 人生の意味や生きる目的が明確になった

  • 死への恐怖が和らいだ

  • 人生や自分に対するポジティブな態度が増加

  • 行動や人間関係が良好に変化


■ 周囲の評価(家族・友人)

  • 参加者の変化を「明らかにポジティブになった」と評価


「神秘体験」が効果を媒介している

研究では「神秘体験」(Mystical Experience)が
治療効果と深く関係していることもわかりました。

  • 神秘体験スコアが高いほど、以下の効果が大きい

    • うつ・不安の改善

    • 人生の満足度アップ

    • 死に対する態度の変化

    • 生きる目的感の向上

ただ薬理効果で症状が改善するだけでなく、“人生観が変わるような体験”が心の変化を促す

考察

■ 研究の意義

  • がん患者にとって、従来の抗うつ薬や抗不安薬では限界がある

  • シロシビンは、薬理的な効果だけでなく、人生や死に対する根本的な捉え方を変える可能性がある

  • 「魂のケア(スピリチュアルケア)」にも効果がある点が特徴的


■ 注意点と限界

課題 内容
少人数(51人)の研究 より大規模な研究が必要
白人・高学歴の参加者が多い 多様な人での検証が必要
時間・コストがかかる セッション前後に十分な心理的サポートが必要

脳科学的な推測

  • シロシビンは脳のセロトニン受容体(5-HT2A)を刺激

  • 脳ネットワークの再構築や神経可塑性の変化があると考えられる
    (詳細なメカニズムは今後の研究課題)


結論

「がん患者のうつ・不安」に対して、
シロシビンは

  • 1回の投与で持続的な効果を発揮(6ヶ月続く)

  • 人生の質(QOL)も向上

  • 死への恐怖も緩和


今後の展望

  • より大規模・多施設での研究が求められる

  • 安全性や効果の再確認が課題

  • 「死に直面する人の心を癒す新しいアプローチ」として期待される

 

参加者について(Study Participants)

この研究には、生命に関わるがんの診断を受けた患者さんで、うつや不安の症状がある人たちが参加しました。

  • 566人が電話でスクリーニングされ、そのうち56人が試験に参加

  • 最終的に51人が少なくとも1回のセッションを完了

■ がんの種類(複数回答)

がんの種類 人数
乳がん 13人
消化器系がん 4人
泌尿器がん 18人
血液がん(白血病など) 8人
その他 1人
頭頸部がん(上部気道・消化管) 7人

■ 精神疾患の診断(DSM-IV基準)

診断名 人数
慢性適応障害(不安型) 11人
慢性適応障害(不安と抑うつの混合) 11人
持続性抑うつ障害(ジストミア) 5人
全般性不安障害(GAD) 5人
大うつ病性障害(MDD) 14人
GAD+MDDの併発 4人
GAD+ジストミア併発 1人

■ 参加者の特徴(平均)

  • 年齢:56.3歳

  • 性別:49%女性

  • 白人:94%

  • 過去に幻覚剤を使った経験:45%(平均30年前)

  • がんの状態:

    • 35%:再発・転移の可能性あり

    • 27%:2年以内の生存が難しいと予測された状態


試験のデザイン(Study Design and Overview)

  • 二重盲検・クロスオーバー法を使用

    • 低用量→高用量グループ

    • 高用量→低用量グループ

  • 参加期間:約9か月(平均275日)

■ セッションのスケジュール

  1. ベースライン評価(参加直後)

  2. セッション1(平均28日後)

  3. セッション2(約5週間後)

  4. 各セッション後5週間で評価

  5. 最終評価は6か月後


事前・事後ミーティング(Interventions)

■ セッション前の準備

  • セッションモニター(スタッフ)と平均3回(計7.9時間)の面談

  • 人生の意味や課題を話し合い、信頼関係を築く

  • 「体験を信じて、委ねて、心を開く」ことをアドバイス

■ セッション後の振り返り

  • セッション後も2~3回の面談(平均2.4時間)

  • 新たに感じた思いや気づきを共有


シロシビン投与方法(Psilocybin Sessions)

  • リビングルーム風のリラックスした環境で実施

  • 音楽を聴きながら、アイマスクをして内面に集中

  • 幻覚剤の効果に個人差があるため、用量については明かさず期待効果を最小化

■ 用量設定

用量 投与量(70kg体重あたり)
高用量 22~30mg(途中から30mg→22mgに変更)
低用量(プラセボ相当) 1~3mg(途中から3mg→1mgに変更)

測定内容(Outcome Measures)

■ セッション中の生理データと行動観察

  • 心拍数、血圧を定期的に測定

  • セッションモニターが行動や感情を記録(5段階評価)

■ 主な観察結果

項目 低用量 高用量
収縮期血圧 142mmHg 155mmHg
心拍数 78bpm 84bpm
「強い体験」と感じた度合い 1.37 2.90
涙や感情の解放 0.66 2.01
喜びや幸福感 0.69 1.90
心の平和・調和 1.08 2.01
恐怖・不安 0.50 0.93

※数字は最大4段階(涙や視覚効果などは一部2段階)


■ セッション後の主観的体験(7時間後)

  • 4つのアンケートを実施

評価内容 使用尺度
幻覚体験の詳細 HRS(Hallucinogen Rating Scale)
変性意識の度合い 5D-ASC
神秘体験の評価 Mysticism Scale(9段階)
神秘体験の質的評価 SOCQ(States of Consciousness Questionnaire)

特に「神秘体験の強さ」が治療効果と密接に関連していました。


■ 長期的な治療効果の評価(5週間後と6か月後)

  • 主な評価指標

症状 使用尺度
うつ病 GRID-HAM-D-17(医師評価)
不安 HAM-A(医師評価)
  • 症状の改善基準

    • 50%以上の症状軽減=改善

    • 50%以上の軽減+スコア7以下=寛解


■ その他の心理測定(15項目)

  • 自己評価うつ尺度(BDI)

  • 不安・抑うつ(HADS)

  • 状態・特性不安(STAI)

  • 死の受容(Death Acceptance Scale)

  • 人生の意味(Purpose in Life Test)

  • 楽観性(LOT-R)

  • 生活の質(MQOL)
    など


コミュニティ評価(Community Observer Ratings)

  • 家族・友人・同僚からの評価も実施

  • 評価内容:

    • 内面の平和

    • ユーモア、遊び心

    • 他者への思いやり

    • 自信

    • 愛情表現

    • 自己と他者の許し など(13項目)

  • 評価時期:

    • 試験前

    • セッション2後5週間

    • 6か月後

  • スピリチュアルな変化の測定

    シロシビン体験が、「生き方」や「人生の意味の感じ方」にどんな影響を与えるのかも評価されました。
    具体的には、以下の3つの観点から、ベースライン(事前)、セッション2の5週間後、6か月後にチェックしました。

    ■ 測定したスピリチュアル指標

    項目 内容
    FACIT-Sp 慢性疾患を抱える人の「精神的ウェルビーイング(心の豊かさ)」を評価
    Spiritual-Religious Outcome Scale 病気を経験したことで、宗教的・精神的な変化があったか
    Faith Maturity Scale どれだけ「成熟した信仰心」や価値観を持つようになったか

    ■ 結果

    • 全体的なスピリチュアルな豊かさが大幅に上昇

    • 精神的な安心感や「人生の意味」についての考え方がポジティブに変化


    シロシビン体験後の「持続効果」の測定

    「その場だけの体験」で終わるのではなく、実生活にどう影響したのかをチェックするために「持続効果アンケート(Persisting Effects Questionnaire)」を実施しました。

    ■ 評価タイミング

    1. 低用量セッションの5週間後

    2. 高用量セッションの5週間後

    3. 高用量セッションから6か月後


    ■ 主な評価項目と結果

    項目 低用量(5週後) 高用量(5週後) 高用量(6か月後)
    人生に対するポジティブな態度 39.6% 57.8%*** 61.2%***
    自己に対するポジティブな態度 35.2% 50.7%*** 54.8%***
    気分のポジティブな変化 36.9% 49.1%*** 55.3%***
    社会的に良い影響(思いやりなど) 35.6% 47.4%*** 51.1%***
    ポジティブな行動変化 48.4% 59.6%*** 64.8%***
    スピリチュアルな成長 37.1% 52.5%*** 57.4%***

    ※***は統計的に有意な差(p<0.001)


    「人生で最も重要な体験」の評価

    参加者に「どれくらい特別な体験だったか」を自己評価してもらいました。

    項目 低用量 高用量(5週後) 高用量(6か月後)
    人生で最も意味のある体験TOP5に入る 24% 62%*** 67.4%***
    人生で最もスピリチュアルな体験TOP5に入る 24% 66%*** 69.6%***
    幸福感・人生満足度が「かなり」向上した 52% 86%*** 82.6%***
    ※***は統計的に有意な差(p<0.001)

    統計解析と重要なポイント

    ■ データのまとめ方

    • 低用量(1mgと3mg)は、効果に有意差がなかったため一括りに分析

    • 高用量も、30mgと22mgの差はほとんどなかったため一緒に分析

    ■ 臨床的な改善

    評価 高用量セッション5週後 高用量セッション6か月後
    うつ症状の改善率 92% 79%
    不安症状の改善率 76% 83%
    うつ症状の寛解(完全に治った) 60% 71%
    不安症状の寛解 52% 63%

    周囲から見た「変化」も確認

    家族や友人、同僚などにも電話インタビューを実施。

    項目 事前 セッション2の5週後 6か月後
    他人から見たポジティブな変化 81.6点 93.8点*** 94.4点***

    ※***は統計的に有意な差(p<0.001)

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