治療抵抗性うつ病にシロシビンが効く可能性─2022年論文結果

今、世界中で「サイケデリック薬理」の研究がブームを起こしています。 その中でも、大きな注目を集めているのが「シロシビン」という成分です。

シロシビンは、いわゆる「マジックマッシュルーム」の成分として知られていますが、その力はけっしてレクリエーションだけのものではありません。

2022年11月、医学界で最も信頼される論文誌の一つ「New England Journal of Medicine(NEJM)」に掲載された研究結果で、シロシビンが「治療抗性重症うつ病」に高い効果を示すことが明らかになりました。

「治療抵抗性重症うつ病に対するシロシビン単回投与」

 

概要

【研究テーマ】

「治療抵抗性重症うつ病」にシロシビンが効くのか?

治療抵抗性重症うつ病(TRD)とは、
「複数の抗うつ薬を試しても良くならない」「何をしても改善しない」
そんな、最も深刻なタイプのうつ病です。

この研究は、TRDの人にシロシビン(マジックマッシュルームの成分)を使うと、本当に効果があるのか?を確かめる臨床試験でした。

 

【研究の方法】

対象者:治療抵抗性重症うつ病の成人 233名

実施方法:

  • シロシビンを1回だけ服用(単回投与)
  • 心理的サポート付き(セラピストの同席)
  • 投与量(3つのグループに分けた):
    • 25mg(高用量)
    • 10mg(中用量)
    • 1mg(対照群・ほぼ効果なし)

評価方法:

  • モンゴメリー・オースバーグうつ病評価尺度(MADRS)を使用
  • 0~60点(点数が高いほど症状が重い)
  • 3週間後の変化をチェック
    • 「50%以上改善」 → 奏効
    • 「スコア10以下」 → 寛解
    • 12週間後も効果が続いたか(持続的奏効)も確認

【結果】

参照:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2206443
項目 25mg群 10mg群 1mg群
参加人数 79人 75人 79人
開始時MADRSスコア 約32~33点 約32~33点 約32~33点
3週間後のスコア改善 -12.0点 -7.9点 -5.4点

 

■ 奏効(50%以上改善)
25mg群:良好

■ 寛解(完全に症状消失)
25mg群:良好

■ 持続効果(12週間後)
一部の人には効果が続いたが、全員ではなかった

 

【副作用】
77%に何らかの副作用が発生

  • 頭痛
  • 吐き気
  • めまい
  • 自殺念慮や自傷行為も一部で報告

※これは、治療抵抗性うつ病の背景リスクとも重なるため注意深い観察が必要。

 

【結論】

  • 25mgのシロシビン単回投与は、明らかにうつ症状を改善する効果があった
  • 10mgでは効果ははっきりしなかった
  • 効果は3週間続き、一部は12週間続いたが、完全な持続効果は限定的
  • 副作用もあったため、安全性の評価も必要
  • 今後は、従来の治療と比べた大規模な試験が必要

 

詳細

【方法・試験の概要】

試験の種類
「第2相二重盲検ランダム化比較試験」
→ 患者も医療者も「誰が何mg投与されたか」を知らない状態で、公平に検証。

使用したシロシビン
COMPASS社の製薬グレード「COMP360」
→ 医療用に純度管理された合成シロシビン。

監督体制
独立した契約機関が患者評価と統計解析を担当。
→ 公平性・客観性を保つための厳密な管理。

倫理と安全

  • 国際的な臨床試験基準(GCP)とヘルシンキ宣言に準拠
  • 倫理委員会の承認
  • 全員が書面で同意(インフォームドコンセント)

【参加者】

対象者

  • 18歳以上
  • 重度のうつ病(治療抵抗性)
  • 2~4種類の抗うつ薬で改善しなかった人
  • 精神病症状がない人(幻覚や妄想はなし)

 

診断基準

  • DSM-5(精神疾患の診断マニュアル)に基づき診断

 

募集方法

  • 病院紹介
  • オンライン広告
  • 口コミ

 

【試験デザイン・流れ】

実施期間

  • 2019年3月~2021年9月
  • ヨーロッパ8か国+北米2か国の計22施設

セラピストの体制

  • 経験豊富な心理士、精神科医が担当
  • 事前研修プログラムを受講
  • 薬の量は知らされず、公平に対応

準備期間

  • 3~6週間の「慣らし期間」
  • 抗うつ薬は事前に中止
  • サイケデリック体験への心理的準備も行う

シロシビン投与方法

  • 25mg、10mg、1mg(ランダム割り当て)
  • 投与セッションは6~8時間
  • 目隠しと音楽を使い、内面への集中を促す
  • 投与後は自宅に帰る

統合セッション

  • 投与後2回のセラピー(体験の振り返りと意味づけ)

 

【効果(有効性の評価)】

評価方法

  • 「MADRS(モンゴメリー・オースバーグうつ病評価尺度)」
    → 0~60点(点数が高いほど重症)

評価時期

  • 投与前、投与2日目、1週目、3週目(主要評価)、6週、9週、12週

副次評価

  • 奏効:50%以上改善
  • 寛解:10点以下になること
  • 持続的奏効:12週まで改善が続くか

 

【安全性評価】

  • 有害事象のチェック
  • 毎回の診察で副作用を確認
  • 医学用語集で記録(MedDRA)
  • 重篤な副作用の定義
  • 自殺念慮・自傷行為は特に注意
  • バイタルサインや心電図も確認

 

【統計解析】

解析方法

  • 主要な解析:反復測定混合モデル(MMRM)
  • 欠測データは補完処理し、偏りを防止
  • 「奏効」や「寛解」はロジスティック回帰で検証

サンプルサイズ計算

  • 216名で90%の検出力(実際は233名)

統計的検定の流れ

  • 階層的検定(25mg → 10mgと1mgの順に検定)

 

【結果】

■ 参加者情報

  • 登録者:233名(25mg群79名、10mg群75名、1mg群79名)
  • 平均年齢:39.8歳
  • 女性:52%
  • 平均のうつ病歴:約7回のエピソード
  • 今回のうつ病:86%が1年以上続いている重症うつ

■ 効果(MADRSスコア)

グループ スコア改善(3週目)
25mg -12.0点(大きな改善)
10mg -7.9点
1mg -5.4点(対照)
  • 25mgと1mgの差は有意(P<0.001)
  • 10mgと1mgの差は有意でない

■ 奏効・寛解

奏効(50%以上改善):

  • 25mg:37%
  • 10mg:19%
  • 1mg:18%

寛解(症状ほぼゼロ)

  • 25mg:29%
  • 10mg:9%
  • 1mg:8%

12週後の持続効果は一部に限定

【副作用・安全性】

主な副作用(25mg群)

  • 頭痛(24%)
  • 吐き気(22%)
  • めまい、倦怠感(6%)

重篤な副作用

  • 自殺念慮・自傷行為
  • 主に既存のリスクを抱えていた人に発生

心電図や臨床検査で異常なし

【議論・まとめ】

  • 効果はあったが、副作用リスクも存在
  • 25mgは3週目で有意な改善を示した
  • 12週目まで効果が持続するかは不明瞭
  • 自殺リスクへの慎重な対応が必要

【研究の限界】

  • 実薬対照がない
  • 多様な人種サンプルが不足
  • 自殺リスクの高い人は除外(より重症の人は未評価)

【結論】

  • 治療抵抗性うつ病に対し、シロシビン25mgは効果がある可能性が示唆された
  • ただし、安全性と持続効果は今後の研究が必要

 

 

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